人の視線を感じることは度々ある。
どこかであった方なのか、一方的に知っていらしゃる人なのか、、、
この時もそんな視線がした。
その視線に気が付きふと顔を上げると私も一瞬手が止まった。
「私も知ってる」
それが何処でだったのか思い出せない。
ただの他人の空似か?
もう一度引き返して彼と目があった場所へ引き返す。
やはり互いに目があった。
そして私は鮮明に思い出す。
三日三晩何かに憑りつかれたかのようにプレイに明け暮れていた彼。
極限まで睡眠を削り、応戦したっけ。
いつも部屋へ行くと、カーテンを閉め切り、薄暗く汗ばむくらいの部屋が出来上がっていた。
そしてアナルの拡張プレイに勤しみ、男と女王は「フィスト(拳が入る事)ができるまで
拡張をする」という目標の元、強い一体感と絆で結ばれていた。
SMプレイとはなかなか一般の嗜好の方には理解ができないと思うが、
私たちは同士であって女王様を1女性と意識されることはない。
又、女王様とは導師であり、「幻想と理想」の世界を「架空とリアル」の世界へと相手が望むタイミングで見せてあげる
事を醍醐味とし、日々精進している生き物だ。
特に私はそれが趣味嗜好を兼ねている。
そう。この男ともなかなか広がって行かないアナルについて二人で悩み、私はどうしたら拳の関節が抜けるのか?
とか、どうしたら手のひらの幅を狭めることができるのか日々の努力で解決できる訓練はないのか?と考え、
またM男の体についても どうしたら肛門周りの括約筋を弛緩させられるのか?
軟膏?錠剤?マインドコントロール? 私が試せない事でも医学的に人間の体の仕組みとして方法はないのか?
と色々調べていたっけ。
だって、どう考えても無理という事は無理だけど(死人を生き返らせるとか)
1%でも可能性がある事ならば、代替え策がきっとあるはず!
そう考えるのが私の癖であり、私のSMの原動力。
だからずっと一緒に考えたよね?
だからフィストができるようになったとき、オマエは興奮して私の拳を銜え込んだまま歩いてみたいと無謀な事を言いだし、
広い部屋の中をグルグルと歩き回ったっけ?
オマエは私の肘まで銜え込もうとも思ったけど、それは未だ達成していなかったよね?
徒突猛進な人間ほど、ふと初心かった自分を思い出した時に、途端に恐怖にかられて特殊な性癖から逃げようとする。
オマエが欲した私の腕の温かさと骨のごつごつとした感触とオマエのうめき声から逃げようとする。
でも、ある日それが現実の日々だったかを確かめるように私の名前を探し出す。
オマエの幻想は、やはりリアルに存在し、再び空想は暴走する。
性癖は初恋と同じようにフラッシュバックするもの。
ほら、戻ってくる時が来たよ。
全てを管理してほしいと言った彼。
私の1番でいたいと言った彼。
「SMとは究極の愛情ゲーム」という私の言葉に「ゲームなんかじゃない」と反論した彼。
ゲームにしなければ、ファンタジーにならない。
時間が来たら、元の場所へ戻らなければオマエはファンタジーも守れなくなってしまうんだよ?
ここへ戻ってきたければ、ゲームと称し楽しみなさい。
私はそう言い放った。
あれから何年たったのだろう?
店を出る時、私は彼が店のドア横に1人で突っ立てるのが見えた。
まるでご主人様を待っている犬のように・・・
私は通り過ぎ間に彼と一瞬目を合わせ微笑んだ。
それ以上は必要ない。
だって彼も目を伏せ一瞬微笑んでくれたから。