これはある老いた男の話。
数ヶ月に一度くる白髪のジジイの話。
私は、このジジイの話を忘れない。
彼は、いつも決まって最終受付の時間に現れ、人を変え、クラブを変え、空が明るく変わるまで四つ這いで女王達の腕を咥え込む。
こんな初老にこんな所まで突っ込んで、死ぬんじゃねーか?ジジイ?
と最初は躊躇した。
彼も結腸部分を幾度も出し入れされる度に、呻き声を上げ、そのうち何度か絶頂を迎え、雄叫び声と共に泪を流した。
彼は1人の女王様と2時間を超えてプレイする事はなく、相手を次々と変え朝になるまで泣き続けるのだと言う。
ある日、ジジイは、私に静かに語り出した。
最初はね、SMなんかに興味なんか無かったんだ。SMに目覚めたのは僕の妻が死んでから。
毎日毎日彼女が死ぬまで僕達は一緒に寝てたんだ。
もちろんセックスもずっとしてたよ。
といっても、僕はもう勃たないから彼女を触って喜ばせる程度ね。
でも、ある日彼女は旅立っていった。
最期の日、彼女は僕に手を握って抱きしめてほしいと言ったんだ。
僕は、その時の彼女が女学生のように見えて、ずっと抱きしめてあげたんだ。
そして、彼女は逝ってしまった。
翌日から僕は何事もなかったように普通を演じていたけど、夜になると隣に誰もいないという事が辛くて
大きな闇に飲み込まれて死んでしまいたくなるようになって、
でも死ぬ方法が見つかなくて、死ぬ気でSMクラブのドアをノックしたの。
自分を殺して欲しくて、壊して欲しくてアナルを広げられる度に、叫び、
深く深く挿入される度に涙を流した。
私は、ジジィを後ろからギューッと抱きしめ
「さぁ、残り時間を楽しみましょう」とだけ言った。
死と生はとても似ている。
アナタが何年かかけて広げた穴に私の腕が入っていく。
貴方のうめき声に生を感じる。
温かさを感じるのは私だけではないでしょう?
私の腕の温かさが貴方の心にやさしく伝わって、激しく感じて欲しいと強く思った。
SMという女王様とM男の遊びは、五感の弄りだけでなく、第六感とも言える見えない糸を手繰る遊びでもある。
ジジィの甘い記憶と深い闇を非日常と背徳心を持って少しだけ飛ばしてあげましょう。
この時間、私は貴方が作った空間から消えることはないよ。
気が付くと、彼の中は動き始め少し膨らんだかと思うと私の肘下から手首をきつく締め上げ
それを何度か繰り返すと嗚咽にも似た声で叫び、果ててしまった。
私は、サージカルグローブをそっと外すと、彼の頭を撫ぜて笑みを浮かべ覗き込んだ。
「今日はよく眠れそうだね」
ジジィも笑みを浮かべ言った
「少し休憩したら、また次の女王様が来ることになってるんだ」
!!!!!!!!
なんてタフなジジィだっ!!!
!!!!!!!!
私は、大笑いしてその部屋を出た。
元気を与えたつもりで、元気をもらって帰ってきたみたいだった。
また来月会いましょう。