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HIBIKI column vol.14

記憶と言うのは、しまう事は出来ても、消すことはできない。
私は、先月新しい店をオープンさせた。
オープニング当日、とある方から祝儀を頂いた。
開けるとピン札で20枚。
私の古い記憶箱の鍵が開く。

それはもう十数年も前の事。
当時の私はちょうどアブソルトを立ち上げたばかりで、友人ミストレスが私の店で働きたいと言うので、それを待っていた。
当時メディアに出るなど全く興味を持ってなかった私は全ての運を彼女に任せていた。
しかし、ちっとも連絡をよこさない彼女に痺れを切らした頃、彼女は再び現れ私に包みを渡した。
『コレでエアコンでも買って』
そう言ったきり、彼女と連絡がつく事はなかった。
包みを開けるとピン札で20枚
私は、独りぼっちになった。
それから『出ずに潰れるよりはマシ』と積極的にメディアに出た。

さらに昔、アブソルトを立ち上げようか迷っていた際、私はある会社にWebSiteの依頼をした。
最終的に私はその会社を信じ、OL時代の貯金を崩した。帯を解いて20枚抜き、その社長に言った
『OLだった私にとって、この金額でも一生が掛かってるんです。託します。』
もちろんピン札だった。
勝負をかける時、私は手垢の付いてない新札を用意する癖がある。
昔から可愛くない女だった。

それから時は過ぎ、私はまたとある男から女を紹介される。
住むところもなく金もないという女を拾い、私は金を貸した。
社長というものは、それくらいの器量がないといけないらしい。
そう男は言っていた。
稼いできては、少しづつ返済をする女。
残高が20になった時、女は言った。
「これだけ返したんだからまた貸してほしい」
私は“やんわり“と断った。
数日後、女と連絡がつかなくなった。

こんな時、社長として私はどうすべきなんだろう?

私は考え、その男に連絡した。
「女が飛びました。ご紹介者である貴方に彼女が残した借金の残高の責任を取ってもらいたい」

電話口で怒りまくった男は、すぐさまやってきて20枚の紙切れを床にたたきつけた。
私は表情を1mmも変えず、“手垢のついてない”20枚を入れた白封筒を鞄から取り出し、男に渡した。

「紹介していただいたお礼です。手切れ金として受け取ってください」

この生意気な小娘の行動に男の顔は、ただ阿修羅面のように歪んでいた
金が欲しくてやったんじゃない。
私は、私が社長になるためにやったんだ。

涙はいつも1人ぼっちになった時に出る。
本当に可愛くない、、、、

背伸びして、気を張って、手をのばして手に入れて、、、何年も意地になっていたのかも。
私はいつの間にか“ピン札のジンクス“の事なんて忘れ働いていた・・・・

そして先月、私は10年ぶりに新しい店をオープンさせることとなった。
2日前までアメリカに居てスタッフ達とロクにミーティングもできないままオープニングが始まる。
もちろん“ピン“なんて準備する余裕なんてなく、私の財布の中はチップでもらった折れ曲がった札しか入ってなかった。

ふと会場を見渡すと見覚えのある顔。
祝儀袋を渡される。
そそくさと会場を後にする男に「らしいな」と苦笑いする私。

今の私は、ちゃんと「社長」の顔をしているのだろうか?
今の私は、地をしっかりと踏んでいるのだろうか?
今の私は、昔の私と比べ少しは可愛くなったのだろうか?
聞いてみたかった・・・

家について祝儀袋を開ける。
“手垢のついていない“20枚
大粒の涙が頬を伝う。
沢山の記憶が私の鍵をかけたBOXから放たれる。
敵わないなぁ・・一生敵わない。

コレハ アナタ ノ ソウシキ ニ ツカウヨ

それまでは神棚に飾っておく。
最後の最後まで可愛くない女を貫くよ。

だって私、女だけど「女の王様」だから


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